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酒井新悟監督インタビュー 「チャンピオンシップは強いところが勝つのではなく、勝ったところが強い。 どんな勝ち方、決め方でも最後まで泥臭く戦いたい」

2025年6月、クインシーズ刈谷の新監督に就任発表からあっという間に10カ月が過ぎ、10月に開幕したSVリーグはレギュラーラウンド44試合を終え、チャンピオンシップに突入する。

間もなく迎える決戦の時に向け、酒井新悟監督はどんなビジョンを描くのか。開口一番、酒井監督が発したのはクインシーズで指揮を執る「楽しさ」だった。

「相手によってどう戦うか。もちろんゲームプランはありますが、それよりも何よりも、このチームは本当にいいチームなんですよ。(監督として)来させてもらえてよかった、と心から思うし、スタッフも選手たちもいい子たちばかり。これからどうなっていくのか、という夢のあるチームなので毎日が楽しいし、8チームしか残れないチャンピオンシップという舞台にこのチームで挑戦できる。まだスタートラインとはいえ、勝負をかける舞台に立てることができるということ自体が幸せだと思いますね」

チームの武器となったブロックディフェンス

滋賀県大津市出身で、地域リーグでのプレーを経て国体が開催される福島県から声がかかり、教員採用試験を受けて中学教諭を務めた経験もある。その後、まだできたばかりのリベロとして新日鉄ブレイザーズ(現・堺ブレイザーズ)でプレーし、02年の引退後は指導者としてコーチ、監督を含めブレイザーズに12年在籍。14年からは2020年の東京五輪へ向けた若手選手育成プロジェクトの「Team CORE」の男子監督を務め、16年から昨シーズンまでは女子の久光スプリングス(現・SAGA久光スプリングス)で監督として指揮を執った。

日本一も、国際舞台を経験する名将だが、偉ぶることは一切なく常に穏やか。誰に対しても分け隔てなく接する明るい指揮官は、選手からも「お父さんみたいな存在」と慕われる。男女どちらのチームでも指導経験があるが、戦術のベースとなるのは男子を指揮する中で磨かれたブロック&ディフェンス。クインシーズに就任初年度となった今季も、試合を重ねる中でブロックはチームにとって1つの大きな武器となり、ブロック決定本数は全チームの中でトップの成績を残した。

「まず着手したのが、リードブロックをベースにしてトータルディフェンスをつくること。今季から加わったダニエル(カッティーノ)とマリー(シェルツェル)がもともとブロックを得意とする選手でもあり、チームとしてのブロック力向上という視点で見た時、非常に大きな役割を果たしてくれました。ブロックディフェンスでボールをつないで、そこからどう点数につなげるかというところでもソフィア(クズネツォワ)が入って、高い決定率を残し、チームとしても『つなげば絶対に決まる』という形ができた。外国籍選手だけでなく、ミドルブロッカーの横田(紗椰香)もブロックにおいては間違いなくチームの柱として、相手がダニエルを避けて打ってきたボールを確実にシャットする、ナイスタッチでつなぐ、ミドルブロッカーとして素晴らしい役割を果たしてくれました。さらに抜けたボールは粘り強くディグでつないで戦うところまでつながって、それがチームカラー、チームの形として確立することができた。全員がハードワークしてくれた成果です」

3人のアタッカーに加え、選手兼コーチとして加わったヌットサラ・トムコムを含めた経験豊富な外国籍選手に引っ張られるだけでなく、チームとして戦うために今は何を高めなければならないのか。定期的に行われてきたポジションごとのミーティングも、「ここまでやっているチームは見たことがない」と酒井監督は称賛する。

「トップリーグで戦う選手である以上、もちろん一番は勝つこと、自分が試合に出て活躍することを目標にするのは当然です。でもクインシーズの選手たちはそれだけでなく、いかに成長するかということに重きを置いているので、誰かを蹴落としてやろうと考えるのではなく、自分が成長して、そのうえでポジション全体としても成長し合うことでチーム力を高めようという意識があるから、同じポジションの選手同士でもっとこうしたほうがいい、もっとこうしよう、と話し合って実践する。チームの結束力、一体感を持って試合に臨んで勝ちをつかみ取ろうと全員が努力する、本当に素晴らしいチームです」

チームの成長につながったフルセットでの3試合

44試合を終え、26勝18敗。レギュラーラウンドの最終成績は6位。昨シーズンよりも3つ順位を上げただけでも確実にステップアップをしているのは確かだが、酒井監督が上位チームとの勝敗を分けたポイントの1つとして挙げたのが、フルセットでの勝利数の少なさだ。

首位のNECレッドロケッツ川崎から8位の埼玉上尾メディックスまで、勝利数だけを見れば差があるように見えるが、力の差はそこまで大きく開いているわけではない。むしろあの試合で勝利していれば、というタラレバを象徴するのがフルセット。今季、12試合に及んだフルセットゲームでクインシーズが勝利したのはわずか3試合。鬼門とも言える1つではあるのだが、チームの成長につながったフルセットゲームとして、酒井監督は3月7日の大阪マーヴェラス戦と22日の埼玉上尾メディックス戦、そして28日のヴィクトリーナ姫路戦、3つの試合を挙げた。

「フルセットの試合を勝ったのは(11月8日の)Astemoリヴァーレ戦以来。それまでずっと勝てなかった中、接戦に強い大阪マーヴェラスを相手に、相手以上の粘り強さを発揮して、最後まで諦めずに勝利をつかみ取った。順位で上にいるチームに競り勝った、という意味では最終節が近づき、最後まで順位争いが繰り広げられる中で勝利した姫路戦もチームとしての成長を感じた試合でした。

一方で、埼玉上尾には前半戦にフルセットで2つ負けて、雪辱を期した終盤のホームゲームでもストレートとフルセットで負けた。選手にとっては本当にしんどかったと思います。でもそこで落ち込んだまま終わるのではなく、次の日の表情やトレーニングする姿を見ていたら、1つの負けに悲壮感を漂わせるのではなく前向きに戦える集団だな、と。チームにとっても、選手それぞれにとっても大きなきっかけになる敗戦でした」

この負けを前へ向くエネルギーにすべく、動いたのは選手たちだけでなく酒井監督も同じだ。またすぐやってくる次戦に向け、酒井監督はあえて主将の鴫原ひなたと副将の吉永有希、アウトサイドヒッターの舟根綾菜にそれぞれの視点から埼玉上尾戦をどう感じていたか。チーム全体に向けて話をして、感じたことを共有し、またチームが変わっていくための力にしようと促した。

「鴫原のようにコートに立ち続けた選手と、途中から入ってフルセットまで持ち込んだ吉永、外から見ていた舟根、それぞれの視点は違うので、そこでどう感じたかを話してもらったことが姫路戦にもつながりました。何よりこのチームは、みんながよくしゃべるし、よく笑う。そして周りの意見や考え方に対しても寛容で、スタッフが言うことに対してもすぐ吸収してトライして、フィードバックしてくれる。今季から私が監督になって、監督が代われば当然練習方法や環境も変わるけれど、嫌な顔をすることなく受け入れて、チームのために、と動いてくれる。何度も言うようですが、本当に素晴らしいチームですよ」

「諦めずに粘り強く、目の前の1点、1試合を一生懸命取りに行く」

対戦相手として見ていた頃から「ハードヒッターが多く、一生懸命さが伝わってくるチーム」と感じていたが、何度も「素晴らしいチーム」と繰り返す今は、指揮官として心から「この選手たちと一緒に頑張りたいし、勝たせてあげたい」と願う。

間もなく始まるチャンピオンシップ、クォーターファイナルではレギュラーラウンド3位のPFUブルーキャッツ石川かほくと対戦する。今季の対戦成績は1勝1敗、全くのイーブンであり、酒井監督も「自分たちの持ち味を発揮しながらも、チャンピオンシップは強いところが勝つのではなく、勝ったところが強い。どんな勝ち方、決め方でも泥臭く戦いたい」と言い、レギュラーラウンドで積み重ねた成果を発揮する絶好の舞台、と笑みを浮かべる。

「選手たちが自分の役割を理解して、さまざまな組み合わせで戦ってきたので、相手からすればどんなメンバーで来るのか。分析しづらいし嫌だと思います。勝負事である以上、勝たないといけないのは確かですが、だからといってうまくバレーをしようなんて考える必要はない。諦めずに粘り強く、目の前の1点、1試合を一生懸命取りに行く。試合の中で選手たちのプレーや心がどれだけ成長していくか。楽しみで仕方ありません」

刈谷での開幕戦から始まった今季、ホームゲームには毎回多くのファンが足を運び、青で埋め尽くされたスタンドを見るたび、「何より力になったし嬉しかった」と酒井監督は言い、だからこそこれからに向けたスタートとして。28年に建設予定の三河安城交流拠点(アリーナ)を埋め尽くすためにも、変化の時と位置付ける。

「選手たちも、新しいアリーナが立つ2年後には常勝チームになる、と自覚して戦っています。プロである以上、1人でも多くの方に見てもらって、応援してもらえるチーム、選手になること。そして『バレーボールって楽しい』と感じさせる、応援したくなるような存在になるためにも、最後まで諦めず、全力プレーをするというのがチームの約束事。見て下さる方の心を動かせるようなバレー、試合ができるように、泥臭く戦います」

チャンピオンシップでも“旋風”を巻き起こす。決戦の時は、間もなくだ。